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がんばれ建設
~建設業専門の業績アップの秘策~
ハタ コンサルタント株式会社 降 籏 達 生
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■2025年8月28日
NO2432
◆監理技術者制度は“足かせ”か? 1億円の違約金に見る現場の苦悩
建設現場での監理技術者の交代が、
約1億円の違約金につながった――。
ある建設会社が、
庁舎建て替え工事において、
監理技術者の交代時に
同等の実績を持つ技術者を配置できず、
約1億円の違約金が発生したという
ニュースが業界を駆け巡りました。
これは、決して他人事ではありません。
私たち建設技術者一人ひとりにも関わる
重大な問題です。
◆加点項目が“枷”になる総合評価入札
この工事は総合評価落札方式で行われ、
加点対象として「免震接続実績」や
「敷地内建て替え実績」が評価されました。
入札時に加点された技術者が退任する場合、
同じ実績を持つ技術者を補充しなければ、
加点分が減点扱いとなり、違約金が発生する
という契約内容だったのです。
一見、合理的なようですが、
実際には非常に厳しい縛りとなっています。
今回の事例では、介護を理由に技術者が
交代せざるを得なかったにも関わらず、
代替人材が確保できず違約金発生――。
企業としても個人としても、
非常に厳しい現実です。
◆若手技術者の育成と制度の“矛盾”
ここで改めて問いたいのは、
現行の監理技術者制度は、
果たして若手技術者の育成に
寄与しているのか? という点です。
監理技術者として
施工実績を認定されるには、
現場の全期間にわたって
従事しなければなりません。
つまり、途中交代した場合、
その経験が“実績”として
カウントされないのです。
この制度は、
技術者のキャリアパスを限定的なものにし、
転勤・異動、さらには家庭の事情に
柔軟に対応できない“固定配置”を
強いることになります。
結果として、
若手の離職理由の上位には
「転勤・異動」や
「監理技術者制度の障害(職務の不適正)」が
並びます。
実際に、日本建設業連合会の調査では、
20代の離職率が5年間で約1.9ポイント上昇し、
22年には6.7%に達しました。
制度自体が、働き方改革や人材確保に
逆行しているとの指摘もあります。
◆柔軟な制度運用は可能か?
国土交通省の案件では、
同等の技術力があれば
監理技術者の交代が認められるなど、
ある程度の柔軟運用がされています。
ところが、地方自治体などの案件では
「実績ありき」で交代条件が
厳格に設定されている場合が多く、
今回のような問題が表面化します。
現実として、監理技術者は
工事期間中ずっと同じ現場に縛られがちです。
結婚、出産、育児、介護といった
ライフイベントにも対応できない制度設計では、
若手が将来に希望を持てません。
◆今、企業と技術者が考えるべきこと
私たちが直面しているのは、
制度の問題だけではなく、
技術者一人ひとりの
“キャリアの在り方”でもあります。
現場を経験し、施工の全体像を
把握できる人材を育成するには、
長期的視点と柔軟な制度が不可欠です。
そのためにも企業側は、
制度の改善を行政に要望していくと同時に、
社内での育成戦略を見直す必要があります。
たとえば:
・途中交代した技術者の経験を、
評価に反映できる社内制度の整備
・ジョブローテーションを前提とした
チーム制の現場運営
・「1現場=1キャリア」ではなく、
複数現場の並行経験や
短期ローテを含めたキャリア設計
これらの取り組みが、
若手の定着とモチベーション向上に
つながるはずです。
◆おわりに
施工実績が評価されるのは当然ですが、
現場の運営は“人”で成り立っています。
その人が「家庭も大事にできる働き方がしたい」
「もっと多様な現場を経験したい」と望むとき、
それを支えられる制度と環境が、
建設業界全体に求められています。
制度を変えるには時間がかかりますが、
企業の姿勢や現場の運用次第で、
少しずつ改善の道は拓けるはずです。
「人を育てる」ことの難しさと大切さを、
制度運用の現場から改めて感じたニュースでした。
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【編集後記】
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あと5日で多くの学校では夏休みが終わります。
夏休みの宿題でたいへんなお子さんもいるでしょうね。
ギリギリになって慌てることを
「子供の夏休みの宿題状態」と呼んでいます。
大人になっても同じ状況にならないよう、
気をつけたいものです。
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社長ブログ