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工事部長・工事課長養成 (1)工事部長・工事課長がすべき仕事を知る
工事部門を統括する工事部長や工事課長と呼ばれる人は
現場代理人の職務が「現場管理」であるのに対して、
「組織管理」が主たる職務となる。
しかし実際には「組織管理」の仕事をせず、
現場代理人の延長の仕事をしている工事部長・課長が多い。
経営者は、「現場管理」ができるのだから、「組織管理」ができるだろうと思い、
「現場管理」のできる人に「組織管理」をさせようとするが、実際にはできないことが多い。
それは「現場管理」のためにすべき仕事と、
「組織管理」のためにすべき仕事が大きく異なるからだ。
連載の第1回では、成果を上げるために、工事部長・課長がすべき仕事を考えてみよう。
■モデル建設会社
ここで、モデル建設会社としてN建設株式会社を想定する。
N建設は地場建設会社で、社員数50名、売り上げ25億の中小建設会社である。
登場人物は以下のとおりである
N社長(52歳)2代目社長、入社して10年目
B工事部長(48歳)1年前に工事部長に昇格
N社長が社長室にB部長を呼び、業務の進捗状況の確認している。
■工事統括管理
N社長;B部長、「平成24年度●●川堤防工事」の現場状況はどうなっている?
B部長;工期が厳しいですが、なんとかなると思います。
N社長;先月も別の工事で同じことを言っていたけれど、結局工期遅延になったな・・・
B部長;あれは、発注者がなかなか当方からの質問への回答をくれなかったからです。
N社長;では「平成24年度●●道路新設工事」の原価はどうだ?
B部長;あの案件は、予算オーバーしてしまいました。
N社長;えっ、先月の報告ではなんとかなると言っていたじゃないか。
B部長;はい、あの時はそう話したのですが、現場を担当しているF君の予算への計上漏れがあり、予算以外の支払いが発生したのです。
N社長;安全パトロールの状況はどうなっているんだ。
B部長;毎月20日に実施する予定になっていますが。。。
N社長;実施してないのか。
B部長;はい。。。忙しくて行きそびれてしまいました。
N社長;ISO外部審査で指摘を受けた発注者からの品質クレームと、近隣住民からの騒音に対する苦情に関する「是正報告書」を作っていなかった件は、対応したのか?
B部長;担当のE君に依頼しています。
N社長;「是正報告書」が再発防止になっていることを確認したのか?
B部長;いえ、まだ確認していません。
N社長;おいおいB部長。部長としての仕事をしているのか!
B部長;一所懸命にやっているのですが。。。
工事部課長の重要な仕事に「工事統括管理」がある。いくつかある工事の統括管理をして、問題を早期に把握し解決することである。また工事を担当する現場代理人の仕事の管理も必要だ。
そのため、すべての工事現場の状況やその現場を担当している現場代理人の状況を正確に把握している必要がある。
■営業管理
N社長;B部長には技術営業として、現在施工中のお客様と過去に工事をさせていただいたお客様をフォローして、リフォーム工事や新設工事を受注することを期待しているのだけど、状況はどうだ。
B部長;はい、N社長からの期待は承知しています。ただ私は口下手で営業は苦手なんです。
N社長;新規開拓を期待しているわけじゃないので、今施工中のお客様や過去施工させていただいたお客様を訪問すればいいんだよ。
B部長;おっしゃることは理解できるのですが、どうも億劫なんです。
N社長;いつまでそんなことを言っているんだ。本来であれば、B部長が現場代理人に対して技術営業を推進させそれを管理しないといけない立場だぞ。
技術営業は、工事部長・課長の重要な仕事の一つである。新規客開拓は営業部署が実施するとしても、過去客、および現在客をフォローするのは、技術力を背景にして工事部門で営業活動すべきである。
■人材管理
N社長;新入社員のH君が、昨日遅刻したそうだけど、どういう教育をしているんだ
B部長;きつく言っているのですが、まだ学生気分が抜けないようです
N社長;採用面接のときは、B部長がH君を一押しだったんだぞ
B部長;はい、私の人材採用能力が不十分なようです。。。
N社長;F君は今年も「一級施工管理技士」試験に落ちたそうだな
B部長;はい、勉強すれば合格する実力を持っているのですが、、、
N社長;部員の会議での発言が少ないし、部員の熱意が足りないんじゃないか
B部長;はい、きつく言っておきます。
N社長;来月人事評価をするけれど、B部長には1次評価をお願いするよ
B部長;はい、わかりました。ただ、私は人の評価をするのが苦手で。
N社長;何言っているんだ。人事評価は部長の重要な仕事だよ。日々各部員の状況をメモしておかないと評価できないぞ。
N社長;ところで先日の入札での技術提案では、最下位だったな。その後、何か対策を打ったか
B部長;きちんとした提案書を書ける者が忙しくて、別の者に任せたらこのような結果になってしまいました。
N社長;部員の提案力を上げるために、研修をやっているのか
B部長;社内研修を実施する予定なのですが、みんなの都合がよい日がなく、のびのびになっています
N社長;計画的に人材育成しないといつまでたっても受注できないぞ
人が財産である建設業において工事部長・課長は、工事部員・課員に対する人事管理を行う必要がある。なかでも工事部員・課員に対する人材採用(必要な人材像を明確にする)、人材育成(動機づけ、スキルアップ、資格取得)、人材活用(人事評価、人事異動)の3つの仕事をしなければならない。
■組織管理
N社長;先日現場代理人G君が図面の作成が遅れて、工期が遅れたようだな。
B部長;はい、G君が仕事を抱え込んでしまい、図面が間に合わず、その結果工期遅延してしまいました。
N社長;だれかが手伝うということはできなかったのか。
B部長;だれも気付かなかったようです。
N社長;部員全員が力を合わせることで結果を出せるような組織になっていないのではないか。君の下には、工事課長がいるのだが、彼らにはどのような指示をしているんだ
B部長;2人の課長も自分の現場管理でいっぱい、いっぱいなんです。
N社長;先日退社した20代の元社員は、だれも相談する相手がいなかったと言っていたぞ
B部長;困ったことがあったらいつでも言って来いと言ってはいるのですが、ちっとも言ってきません。
N社長;それは君が聞く耳を持っていないからではないのか
組織にはT機能、M機能が必要だ。
T機能とはタスク機能といわれ、仕事をスムーズに推進するための機能である。責任や権限を明確にし、業務遂行のための計画を立て、進捗管理をし、不足していることがあれば、相互に協力し合って目標を達成しようとする機能である。
M機能とは、メンテナンス機能といわれ、組織を維持するための機能である。社員が働きやすい環境を作り、困ったときに相談できる雰囲気つくりや、ほめたり認め合ったりする社風をつくることである。
■財務管理
N社長;B部長、売上対する工事全体の粗利益率はどの程度になっている?
B部長;現在18.5%です。
N社長;入金状況はどうだ?
B部長;しっかり把握していませんが、きちんと入金されているかと思います。
N社長;「思います」ではだめだぞ。未入金の金額を把握しないといけない。キャッシュフローはどうなっている?
B部長;キャッシュフロー?
N社長;わが社は毎月短期借入金を借りたり、返したりを繰り返しているんだ。1日でも早期に工事を完成させ、検査を受け、請求書を早く出すことがキャッシュフローを改善するんだよ。
B部長;工期を早くすることは心がけていましたが、キャッシュフローまで把握していませんでした。
N社長;損益分岐点売上高は、現在いくらになっている?
B部長;売上高の目標対比は把握していますが、損益分岐点売上高はわかりません
N社長;目標を達成していればいいというものでもないよ。損益分岐点売上高は、会社の固定費と粗利益率で決まるんだ。当初設定していた粗利益率が下がれば、損益分岐点売上高も変わるぞ。工事部長たるもの、財務状況に常に意識をしてもらわないといけないぞ。
工事部長・課長は、粗利益率に代表される「収益性」とともに、「安全性」やキャッシュフローを配慮して工事を進めなければならない。そのためにも損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を読み込み、対策を実施しなければならない。
■工事部長・課長がすべき5つの仕事
ここまで工事部長・課長がすべき仕事を解説した。それらをまとめたものが、表1である。表2に現場代理人のすべき仕事を上げたので、その違いをみればやるべき仕事の違いがわかるだろう。自らのやっていることと、相違がないのかを確認してほしい。
表1 工事部長・課長がすべき仕事
工事部長・課長がすべき仕事 | |
工事統括管理 | 工事全体、および現場代理人を統括管理し、品質、原価、工程、安全、環境各分野に関して問題を把握し解決の道筋を作る |
営業管理 | 過去客、現在客のフォローをして、継続受注に結び付ける |
人事管理 | 工事部員・課員に対する人材採用(必要な人材像を明確にする)、人材育成(動機づけ、スキルアップ、資格取得)、人材活用(人事評価、人事異動)を実施する |
組織管理 | 工事部、課を活性化させ、強くて硬い組織を作るための施策を実行する |
財務管理 | 工事に関する財務(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)に関する実務を実行する |
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表2 現場代理人がすべき仕事
現場代理人がすべき仕事 | |
品質管理 | 工事の品質を確保し、顧客満足を向上させる |
原価管理 | 工事原価を低減させ、適正利益を確保する |
工程管理 | 工事の工程を順守する |
安全管理 | 工事現場で働く作業者の安全衛生を確保する |
環境管理 | 自然環境、周辺環境を保全する |
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がんばれ建設メールマガジン著者 ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役 降籏 達生
学生時代に、映画「黒部の太陽」を見て、建設を生涯の仕事にすることを決意する。大阪大学工学部土木学科卒業後、株式会社熊谷組に入社し、トンネル工事、ダム工事、橋梁工事に従事する。1995年、阪神大震災にて、生まれ故郷である神戸の崩壊を目の当たりにして、建設業界の変革の旗手になることを決意する。 同年3月株式会社熊谷組を退社し、独立。三浦と共に創業した、ハタコンサルタント株式会社の代表として、建設業界の革新、建設技術者の育成、ISOシステムの普及に全身全霊を傾ける。現在、ハタ コンサルタント株式会社、ハタ コンストラクション株式会社 各代表取締役、NPO法人建設経営者倶楽部理事長。
信念: 「不惜身命」の心構えで生きることです。明日があるとは思わない。今日でこの世が終りになるかもしれないという気持ちで、目の前の人に、全力投球することが私の信念です。
抱負: 私の夢は、子どもがなりたい仕事のベスト10に「エンジニア」を入れることです。私は、技術立国の実現しか、日本の生きる道はないと思います。そのためには、技術者が誇りを持って、力強く生きることのできる社会を作らなければいけません。