2018-1-29 建設業の心温まる物語/日刊建設工業新聞掲載記事を引用

のり面工事の現場で起工測量を行っていた時の話です。当時は元気な社員が多く、いけないことですが、法肩まで命綱も安全帯も着けずにスパイク付きの長靴で登っていって測量をしていました。私もそのうちの一人でした。
しかし、年を重ねるごとに体が衰え、体型も変わり、体がきつくなってきていました。会社の中の地位が上になり、若手をひっぱっていかなければならない立場になってきたため、「怖い」「しんどい」とは言えません。そのうち、起工測量に出掛けることが、憂鬱に感じるようになりました。
そんなある日、若手社員の一人Aくんが、私の気持ちを察して次のように言いました。
「大島さん、無理せんでいいですよ。俺たちが上に登って測量テープをのり尻に垂らすからポイントに目盛りのゼロを当ててくれればいいです。のり長は俺たちで読むから野帳に展開図書いて寸法記入してください」
そう言うなり、Aくんは測量テープを持ってひょいひょいとのり面をのり肩まで登っていきました。私は高所の恐怖から解放され、不安な思いもなくなり、ただただAくんに感謝するばかりでした。
そして入社当時は右も左も分からなかった新人が、その時ほど大きく頼もしく思えたことはありませんでした。人の気持ちを考えられる、優しく立派な技術者に育ち、大変うれしい気持ちになりました。