2018-6-25 建設業の心温まる物語/日刊建設工業新聞掲載記事を引用

私の師匠は、私が入社したその日から怒鳴る職人Aさんでした。Aさんは壁に当たって逃げたくなる時でも、絶対に逃げない人でした。私が職人となったあとも、私の相談役になってくれていました。
数年が経ち、会社の方向と自分の考えが違った時に、Aさんに相談を持ちかけると「俺はお前の意見に賛成する。心配するな。何があっても俺は自分を犠牲にしてでも助けてやる」と言っていただけました。私は、Aさんに認めてもらえていること、そして大切にされていることを実感しました。
ある夏の暑い日のことです。私は長時間の残業で、体力も気力も限界に近づいてきていました。そのとき、夜9時過ぎにも関わらず、私の元にAさんとその仲間が駆けつけてくれました。そしてAさんの「あとはまかせろ!」という言葉。私は安心で崩れそうな状況でしたが、「この仲間がいればいける!」と、もう一度自らを奮い立たせ、仕上がりまで一緒に終わらせることができました。
翌朝、Aさんは「おはようさん。昨日はお疲れ」と言葉を掛けてくれました。本当ならこちらからお礼を言うべきなのに、Aさんはいつもそんな気遣いを忘れない方でした。
そんなAさんは、もういません。一生追い付くことのできない人になってしまいました。しかし、いつまでも私の目標の師匠であることは今も変わりません。