建設業で本当にあった心温まる物語

株式会社吉川工務店(岐阜県)・梅本 稔美/~社会の一員としての存在意義を感じた時~

2017-8-28 建設業の心温まる物語/日刊建設工業新聞掲載記事を引用

 私は建設会社に入社してすぐAマンション新築現場に配属されました。現場では現場管理の右も左もわからず初めて見る機械や材料ばかりでした。学校で勉強してきたことなど何一つ役に立たず、上司から指示された仕事を毎日慌ただしくこなすばかりでした。

 Aマンションが完成を迎える前に別の現場に配属され、その後も工事途中で次々と忙しい工事現場への配属が続きました。会社の中の一つの部品として使いまわされている様な感覚でした。

 数年が経ち少しは仕事に慣れたころ、偶然Aマンションの前を通りかかりました。懐かしく思いながら見ていると、ベランダの洗濯物や干されたおふとんから入居されている方々の温かい生活を感じました。私はこの時はじめて自分がかかわった建物を信頼し、さらには人生や命や財産を預けている人たちがこんなにも大勢いるのだと思いました。

 今思えば、Aマンションの工事の際は、近隣の方から「音がうるさい」といわれ、謝りに行きました。また、何度やっても測量がうまくいかず、先輩や職人さんに迷惑をかけました。人手不足で工期が間に合わず、深夜までの職人さんの手伝いをしたこともありました。苦労はたくさんありましたがそれを乗り越えた時の達成感は格別でした。

 若い年齢にもかかわらず社会的には大きな責任を担い、完成後何十年もの間多くの人が自分のかかわった建物を利用する事を想像しながらの仕事は大変やりがいのあるものです。ぜひこの満足感を建設業にかかわる多くの若い方に感じて欲しいものです。